医薬品について
医薬品には薬局(ドラックストア)で販売され、誰でも簡単に購入することが出来る「一般用医薬品」と医療機関で取り扱われる「医療用医薬品」があります。その医療用医薬品は、さらに新薬とジェネリック医薬品とに分けられます(医療用医薬品であっても「処方せん医薬品」に指定されている医薬品でなければ、処方せんがなくても医薬品販売業者や薬局から購入できます)

-薬が出来るまで-
新薬の開発から販売に至るまでには莫大な費用(通常150〜200億円)と、長い年月(10年〜20年)がかかります。薬が出来るまでの過程を大まかに五つの段階に分け見ていきたいと思います。

@基礎研究(2〜3年)
膨大な数の物質(合成化学物質、天然物質、細菌、ウィルスなど)の中から、薬となる可能性のあるものを発見したり創り出す。 細胞等を用いた試験や動物実験によりテストをし、選ばれたものが次のステップに進むことが出来るが、ほとんどの候補物質はこの時点で脱落する。 ※近年では疾患の原因遺伝子をもとに薬を開発するゲノム創薬という手法が盛んになっている。

A非臨床試験(3〜5年)
マウス・ラット・ウサギ・イヌ・サルなどの動物を使った試験(in vivo)や、培養細胞などの試験管内試験(in vitro)によって、薬の候補である化合物の有効性や生体内での影響、毒性などを調べる。試験は大きく次の三種類に分類される。

(1)薬理試験
薬効薬理試験
対象疾患の治療の効果を確かめる試験。遺伝子操作により生まれつき病気を持ったマウス(トランスジェニックマウス)や 人工的に病気の状態を作り出した病態モデルへの投与が行われる。試験の内容は開発される薬の種類によって様々。

副次的薬理・安全性薬理試験
薬の作用を幅広く把握するために行われる。 薬には対象疾患の薬効作用の他にも色々な作用(副次的薬理)があるためどれだけの用量を投与すればどのような作用が現れるか、 どのような副作用が予測されるかといった問題を明確にする。 中枢神経系、呼吸器、自律神経系、消化器系などそれぞれの主要器官に及ぼす作用を調べる。 ※ガイドラインでは「無麻酔動物を用いることが望ましい」とされている。

その他の薬理試験△
※(△)必要に応じ実施する(薬物相互作用など)

標準的なガイドラインとして「安全性薬理(一般薬理)試験ガイドライン」「薬物相互作用の検討方法について」がある。 薬効薬理試験は各薬剤によって手法は異なるため、ガイドラインは作成されていない。

(2)薬物動態試験(ADME)
投与された薬がどのように吸収され、組織に分布し、小腸や肝臓中の酵素により代謝され、排泄されるのかを動物を用いて調べる。 薬を投与した動物の血中濃度を測ったり各臓器に分布している薬の蓄積量を解剖によって測定する(胎盤・胎児・乳汁中への移行性なども調べる) 標準的なガイドラインとして「非臨床薬物動態試験ガイドライン」が存在する。

吸収
分布
代謝
排泄
その他の薬物動態試験△
※(△)必要に応じ実施する(薬物相互作用など)

(3)毒性試験
薬の毒性を調べる試験。それぞれに標準的なガイドラインが存在する。

単回投与毒性
反復投与毒性
遺伝毒性
がん原性△
生殖発生毒性
局所刺激性△
その他の毒性試験△
※(△)必要に応じ「局所刺激試験(眼や皮膚に塗布する場合)」「がん原性試験(臨床で6ヶ月以上投与される薬剤)」 その他の毒性(精神薬の場合は依存性の試験など)を実施することになる(他は原則必要)

B臨床試験(3〜7年)
ヒトを対象に行う試験(人体実験)臨床段階で重い副作用や毒性が見つかったり、効果が認められなかったとして振り出しに戻る例も多い。

●第I相
同意を得た少数の健康男子を対象に安全性や生体内での移行について調べる(抗癌剤など明らかに有害な薬では例外的に患者を対象とする)

●第U相
同意を得た少数の患者を対象に有効で安全な投薬量や投薬方法などを確認する。

●第V相
同意を得た多数の患者を対象に有効性・安全性を標準的な薬(またはプラセボ薬)と比較する。

C審査/承認(2〜3年)
厚生労働省に製造承認を得るための申請を出し審査に通ったものが薬として市場に出る。

ジェネリック医薬品とは?
新薬を開発した会社は特許によってその権利と利益が守られています。具体的には開発してから特許権の終了まで最大25年他の会社は同じ成分の薬を作ることが出来ません。 特許の切れた新薬と同じ有効成分を使って作られた医薬品を「ジェネリック医薬品」といいます(ジェネリック医薬品を製造販売するためには、新薬同様に薬事法に基づいて厚生労働大臣から承認を得なければならないが、生物学的同等性試験と溶出試験(新薬と同等の作用を持つことを証明する試験、いずれも人での臨床試験)のような小規模な試験のみで承認を得ることが出来る) ※使用前例の無い添加物を配合する場合や使用前例があっても投与経路が異なる場合、前例を上回る量を使用する場合には、新添加物として毒性に関する資料の提出が求められる。

一般用医療品と医療用医薬品の違い
医療用医薬品は大体一つの薬に一つの成分のみですが、一般用医薬品は一つの薬の中に様々な成分が入っています。新規の承認審査に必要とされる資料の範囲については両者に差はありません。

日本製薬工業協会によると、主な製薬会社十七社で五年の間に臨床試験にまで進んだ百七十種の新薬候補の四割が安全性や効果の問題から開発中止になり、うち六割が動物実験と臨床試験のデータに関連性がなかったそうです。 何万という無意味な実験の犠牲となった動物たちの存在や動物実験で安全とされた薬が後に様々な薬害や副作用の被害を作り出していること等を考えると、やはり動物実験というシステムそのものに欠陥があるように思えます。また、発売当初は大変高価に売れる新薬も、二年後には薬価が引き下げられるため、製薬会社は更なる利潤を求めて次々と新薬を開発する仕組みとなっています。この分野においても心がけ次第で動物の犠牲は大いに減らせるはずです。現在動物実験に費やされている何十億もの資金は、もっと他の研究や臨床の場に向けられるべきではないでしょうか。